そんなこんなで灰色の日々を過ごしていたある日、私にとんでもない災厄がもたらされた。

「ええ‼出張ですか。しかも…」

大神さんと2人で1泊2日ぁ~⁉

大神さんは、フーッと深い溜め息を吐いた。

「仕方がないだろ、このシマで一番仕事してない奴、お前だし」

絶対に嫌だ。私は抵抗を試みた。

「で、でもぉ…私、出張行っても役に立たないですし…、会議なら大神さんお一人でも大して違わないってか…経費節減にもなる……」
 
「黙れ新人。
こっちにはこっちの都合があんだよ。1週間後に伊豆だ。さっさと手配してこい!」

「は、はいぃ~」

…敢えなく敗れた。

走り出した私に、水野女史が眼鏡を光らせて囁いた。

「赤野さん、…気をつけなさい」

「?」

どう返したら良いものか分からず、ペコリと頭を下げる。

ちなみに水野女史は、いわゆる『お局様』ではない。独自の世界観に浸かっている実に人畜無害な女性であり、その点ではラッキーであった。


…そしてその時。


金券ショップに向けて走り出した私を、熊野主任が心配そうに見ていたことなど、知るよしもなかった。