そう言われて思い出した。

「あっ、防犯グッズのお店のお兄さん!

 どうしたんですか!?
 髪が逆立ってないですよっ」
と言ったあとで、夕陽に染まった空を見上げ、

「天気がいいからですか?」
と問うと、

「……いや、あれ、静電気とか湿り気で立ってるんじゃないですよ」
と言われた。

「今日はちょっと別の仕事で」
と微笑まれ、なんの仕事なんだろうな……と思ったが、あまり追求はしない方がいい感じだった。

「いい品入ってるから、また来てくださいよ」
と言われ、あの店のいい品って、どういう意味でだろうな、と思っていると、

「あ、もう厄介な旦那とは別れたから、いらないって思ってますか?」
と男は笑い、言ってくる。

「僕の経験上、言わせてもらうと、油断は禁物ですよ。
 これ、あげます」
と男は、茅野の手に割引券らしきものを押し付け、去っていった。

 油断は禁物……。

 思わず、茅野は周囲を見回す。

 建物と建物の隙間の暗がりに、電柱の陰に、刑事のように秀行が潜んでいる幻を見、茅野は慌てて、バス停へと駆け出した。