「ちょっと、千哉?」





握られた手に異常なくらいの熱を感じてその熱は私の手を伝って頬までくる。





「悪いけど、俺、コイツ手離す気ないから」





ち、千哉……






「俺は認める気はないよ? 千哉の為を思っていってるんだからね?

今日あったばかりの子を、なんでそんなに」





「正しくは昨日。だけどな。

……直感というか勘というか。

普通に、そういうもんでほっとけねぇってなった」





「見た目は守ってあげたいうさぎみたいな子だけど、結構威勢良さそうじゃん? 俺、紬ちゃんがここに居座るなら、いじめちゃうかもよ?」





え……!


それは困る。


なんか伊織さんのいじめってかわいくない気がする。






「好きにしろよ」





……そこは、いじめるなって止めてほしい。







「紬ちゃん、ちょっとゆっくり話そうか」







伊織さんにそう言われて顔がひきつる。



それに気づいているくせに伊織さんはニコニコと私から目をそらさない。

顔面で嫌と拒否っても、無駄みたいだ。






「……私は自分のこと話すつもりないけれど。

それでも、話すことってある?」





知りたければ勝手に調べろ。



そう、言いたいの。




バチバチと伊織さんとの間に火花をとばしていると、パンっと手を叩く音が聞こえた。







「……そこまで。

もう遅いからまた他の日にして。



……紬はどうするの? 帰る? 泊まってく?」





「泊まる」





女の子に対して泊まってく?ていう選択肢を与えてくれるのなんてびっくりだけど、即答。



私に、帰る家なんてない。





すべてを捨てて逃げてきたんだから。











そう、翔平さんから逃げてきた。





殺されるかもしれない恐怖から。







私は拳をしっかり握りしめて、足を1歩踏み出した。