抱きしめられて、ずっとあった、胸の騒めきが驚く程、静まっていた。
(― ふれたい。ふれられたい。)

絢香は、そっと立つと、ピアノへと歩いて行った。

グランドピアノの横に立ち、晃を見下ろした。
晃は驚いたように、ピアノを弾く手を止めた。

月明かりに照らされ、真っ白なブランケットを羽織った絢香は美しかった。
そんな、絢香を晃はただ、見ていた。

絢香は、何も言葉を発せず、晃の頬に手を伸ばすと、ゆっくり触れるだけのキスをした。

晃は、何が起こったのかわからなかった。
ただ、今感じる絢香の体温に、心から安堵している自分がいた。

そして、ゆっくりと唇を離すと、絢香は晃を抱きしめた。

晃は、その温もりを、感じていた。

絢香も、心が安らいで行くのを感じた。



そのあと、なんの会話もせず、晃は絢香を抱き上げると、ベッドルームに行き、ただ絢香を抱きしめ、2人とも眠りに落ちた。

晃は、夜、目を覚ました。
腕の中にある、温かい感触と、寝息を確かめると、また、眠りに落ちた。