椅子に座らされると、
「ほとんど食べてないだろ?」
晃はそういうと、ワインを慣れた手つきで開け、絢香のグラスに注いだ。

絢香は、もう何かを言う気力も残っていなくて、呆然と、その様子を見ていた。

一向に食べず、ただ座っている絢香に、
「お願いだから、食べろ…。」
晃は絞り出すように言った。
その声に、絢香は晃を見た。

(ー なんで、そっちがそんな顔するの?ほかっといてくれればいいのに。)

また、涙が溢れた。

そんな、絢香に、晃は手を伸ばして、ハッとして、すぐ手を引っ込めた。

絢香はただ、涙を流し続けた。

食欲なんて、まるでなかった。

目の前の、たぶん美味しいだろう料理だけが、寂しくテーブルに置かれていた。

どれぐらい時間がだったがわからないが、少し絢香は落ち着くと、せっかく作ってくれた人がいるのだから、と絢香は少し料理に手をつけた。
味は、わからなかった。
きっと美味しいんだろう。

心が、ざわざわ音を立て続けていた。

晃は少し離れたソファにただ座っていた。


少し食べて、絢香は席を立った。
「ありがとうございます。」
それだけ、言うとドアに向かった。
「カギ、あるのか?」
(ー あー、鍵。)

「電話貸して下さい。フロントに電話します。」
それだけ、言うと電話に向かった。