絢香は、晃のBGMで、最高のアフタヌーンティーを楽しんでいた。

(ー 美味しい。仕事なのに、こんなにしてもらっていいのかな…。)

絢香は、さっきまでの、心細い気持ちが、いつの間にか美味しいものに、溶かされていくようだった。

時間は14時を回った。
真剣にピアノを弾いていた晃は、大きく息を吐いた。

そして、絢香を見た。
先ほどより、絢香の空気が穏やかになったような気がした。

「絢香…、」
不意に呼ばれ、絢香はドキンと胸が締め付けられた。
そっと、晃の方を見た。
先ほどとは、違う、悲しそうな瞳の晃を見て、
「…なに?」
と絞り出した。

「こないだは、ごめん。」
そういうと、晃は下に視線を落とした。
絢香は、何も言えずにいた。

「…なんで、謝ってるの?」

今度は晃が黙った。

沈黙が、緑の中で一層際立った気がした。


「そろそろ、行こうか。」
晃に言われ、絢香も席を立った。