林檎は最後まで俺に自分の出自を告げなかった。
冗談めかした口調で「元お姫様」と宣ったことはあれど、「あたしはあの城の姫だ」と言ったことはなかった。




それが林檎の本音なのだろう。
身分を言えば無条件に愛される。
それが、嫌だったのだろう。




俺もそうだ。
兄たちと比べられるのが嫌で、山小屋を飛び出し、森へやってきた。
一人暮らしは慣れないことだらけで大変だったけど、弟だからと無条件に可愛がられるのが嫌だった。




俺と林檎は似ている。
似ているけれど、その身分の壁は高く、超えられる気がしない。
俺は警備隊長とは違うんだよ。






「本当にそれで良いのですか?」
「仕方ねぇだろ。身分差は埋められねぇ」
「今回のダンスパーティーには爵位を得られるミニイベントがあるのですよ?身分差は埋められます」





裏イベントなんで告知はないんですけどね、と守衛の娘。
守衛の娘が差し出した紙にはたった一言。




〝引き篭もってしまった林檎姫に、光を見せられた者を王家に歓迎します〟




王様、だと?
爵位どころの話ではない。
勝算はないがやるしかないだろう。
引き篭もってしまっては、林檎がせっかく学んだことを活かせないからな。





「行くと、林檎に伝えてくれ」
「……はい!これで林檎様は幸せになれますね!」
「それは林檎次第だろ。俺は林檎が幸せになる為に手を貸すだけだ」




楽しみにしてますよー、と手をぶんぶん振って帰っていった守衛の娘。
さぁ、戦だ。
林檎にもう一度、光を魅せてやる。