何とか夜明け前に薬売りの娘を救い出してパン屋へ戻れば、事態を察知していたのか、温かいスープを用意してパン屋が待っていた。



林檎をアルバイトとして雇うお金だってあるのに、残り少ない生活費を切り崩して俺達の為にスープを用意してくれた。
こういう優しいやつが国を治めるのに向いているんだろうな。





「無事で良かったわ、林檎様」
「……知っていたのね?」
「この国で貴女を知らない人はいませんよ、林檎様」





パン屋が視線を向けた先にはたくさんの写真。
そのどれもに林檎が写っていて、どの笑顔も素敵だった。




生まれた時の写真、3歳くらいだろうか人形を持った写真、件の林檎型の髪飾りを付けた林檎と薬売りの娘……。




「王様は林檎様をとても愛しておられました。季節のお手紙には必ず林檎様のお写真を付けて下さって……町の者は烏滸がましくも貴女を自分の娘のように可愛がっているのですよ。次に届く写真の林檎様は結婚式かしら、なんて言っていたのです」




王様がなくなって、お便りがなくなっても写真だけは何故か届いたという。
騎士の格好で姫様はまた一段とお綺麗になられたとそれは嬉しそうに、写真を配ってくれたとか。





「その者の名は……?」
「警備隊長の妹君です」
「あの娘が……」




複雑そうに笑う林檎。
林檎を愛してくれる部下がいるから、林檎は歪まずまっすぐ育ったんだな。





遠くで脱走を告げる鐘が鳴ったけど、今だけは聞こえないふりをしたい。