「——!?」


 背後から母親の声が聞こえた。

 直ぐに体中から冷や汗が流れて、体が小刻みに震えだした。

 ここは母親の職場なんだからいずれ会うと分かっていたハズなのに、俺はその途端、自分がろくな覚悟をしていなかったことを思い知った。



 ダッセェ……。血の繋がった母親に怯えるとか、ダサい以外の何モノでもない。

 ——怖い。

 怖くて声が出ない。体が震えて動けない。

「早くこっち向きなさいよ」



 そう言われた直後、ビクッと音を立てるように、肩が勢いよく震えた。




 そして、振り向きたくないと思ってる癖に、一瞬で体は動いた。


 振り向かなかったら殺されるとか思ってるから?


「……」


 もういいや。



 どうせ死ぬなら、母親に殺されず自分からこの病院の屋上で死んでしまった方がマシだ。




 そしたら少しは、母さんも泣いてくれる?





 俺は震えを抑えるために右手の拳を軽く握ってから、ゆっくりと後ろに振り向いた。