「彼女と出会ったのはインカレだった。あまり目立つようなタイプの子ではなかったが、くしゃっと笑う眩しさや優しさに惹かれたんだ」


瞬間的に耳を塞いでしまった。松村さんがずっと思い続けていた人の話を聞くなんて。


知りたいと思っていても、いざ耳にすると胸がチクっと痛む。けれど、そう話す松村さんの横顔を見ると、耳を押さえていた手は自然と離れて行く。


そんなに辛そうな顔…しないで。


「彼女の大学での生活は知らないけど、サークルでは明るく楽しそうにやっていたから、それが真実だと思ってたんだ。付き合っている時の彼女も同じだった。いつも楽しそうにしていた」


遠くの空でカラスが数羽飛んでいる。少し日が傾いて来た、そんな時間帯。


私は口を挟まず、相槌も打たず、ただ聞くことだけに集中した。


「でも、俺は彼女の表面の部分しか見ていなかったんだ。ある日、彼女はサークルに顔を出さなくなった。連絡も取ることができなくなった。それから数日経って届いた知らせに心臓が止まりそうになった」


そこで何が起きたのか何となくわかった。一度目線を外し、心の準備を整えて再び顔を向ける。


「自殺したんだ。大学での人間関係に疲れきって」


瞬間的に思った。その人と私は"似ている"と。


「全ては遺書で知った。特定の人物の名前が書かれていたわけではないが、『少数派よりも多数派が尊重される。少数派の価値はないの?自分の思うように行動すると集団から省かれて無視される。わたしには生きづらい世の中だった』と、そんなことが書かれていた」


それは、私の思っていることと全く同じだった。悩んで選んだ先が悲しい結末のものとなってしまっただけの違いであり、置かれた境遇は私のそれと合致する。