「松村さんは、今までどういう恋愛をしてきたんですか?」


どこまで踏み入れて良いのかはわからない。だけど、そよぐ風の音につられるように、ぽろっと口から言葉が漏れた。


「…何?気になんの?」


「まぁ、多少は」


伏し目がちに松村さんの方に目をやると、彼はどこか寂しげな表情を見せた。会って間もないが、こんな顔を見るのは初めて。


「すっげー好きな奴はいた。でも、ダメになった」


「別れちゃったんですか?」


「まぁ、そんなとこ」


夕日は沈み、やがて辺りは一面暗闇に覆われた。ふと空を見上げると、月がぽつんと、それでいてしっかりと存在していた。


私が見上げる空はいつもどんよりとしていたが、今日は違う。不思議な気分だ。


「てかもう暗くなったから帰るぞ」


突然立ち上がった松村さんを『えっ!?』と声を上げて見る。私のことなんてお構いなしそそくさと退散してしまう。


な、なんなんだ!?


慌てて立ち上がり、小走りで後をついていく。


チラッと後ろを振り向き、目の前に広がる光景をしっかりと脳裏に焼き付けた。


まさかこんな場所があるなんて思わなかったな。松村さんが穴場を教えてくれるなんて、何か心境の変化でもあったのだろうか。