ケータイ小説 野いちご

真実の愛に気づいたとき。

「私は、自分の思うままに生きてきました。でも、結果的に孤独になりました。好きなように生きるとこができるのが"幸せ"なのか、友達や家族が居て"幸せ"なのか…幸せの意味を知りたいんです」


彼の目を強く見つめ、ひとつひとつ言葉を発した。


この人は他の人とは違う…そう思った。


目線を逸らさずに返答を待っていると、彼は何かを考えるように少し俯きがちになる。


そしてゆっくりと顔を上げて口を開いた。



「お前自身の幸せなんて知ったこっちゃない。結局世の中は集団社会なんだ。その中で他人と上手くコミュニケーションを取って、そして信頼を得る。そこで初めて自分の存在価値が見出せる。他人から必要とされる喜びが"幸せ"なんじゃないか?」


「他人から必要とされる喜び…」


集団社会を敬遠してきた私には、彼の言う"幸せ"を感じることなんて難しい。


友達が居ない私は"不幸せ"なのだろうか。



「…まぁ、心理学的に言うと、だがな」


「心理学…お詳しいんですか?」


「…つーか、もういいだろ?そろそろ俺店戻らねーと」


その言葉に、彼は今休憩中であることを知った。


あわあわと慌て出す私に吹き出した。



「ははっ、何だよお前、もしかして申し訳ないとか思った?」


腰を屈め、ぐっと顔を近づける。


顔にかかる吐息は微かにタバコの香りがした。


タバコは嫌いだが、今日のそれは彼が大人の男性であることを強く示し、色っぽさを感じる。



「あ、当たり前じゃないですか」


「本当におかしなやつだな」


そう言うと彼は胸ポケットからトランプサイズの革のケースを取り出し、その中から紙を1枚引き抜いて私に渡した。


それを両手で受け取り、まじまじと見つめる。



「松村…慶?」


「それ、店の名刺。今日みたいに突然会いに来られるとびっくりするからさ、これからはそこに連絡しろ」


名刺の右下に目をやると、電話番号とメールアドレスが書いてあった。


名前と連絡先が一度に手に入った喜びを感じたのも束の間、名刺の連絡先は要は業務用のものであるということも同時に察し、複雑な気持ちになる。



「…んだよその顔」


「あ、いえ、ありがとうございます」



教えてくれただけありがたいよね。


あれ?と、言うことは…



「私、まだあなたと…松村さんと関わってもいいんですか?」


「何?拒否ってもいいならそうするけど」


「あ、いえ!!関わらせてください!!」


『お願いします』と勢いよく頭を深々と下げる。


「…まぁ、あんま思い詰めるなよ」


松村さんは私の肩を二度軽く叩き、『じゃあな』と横を通り過ぎて行った。


貰った名刺を眺める。



「松村…慶さん」


あ、年齢聞き忘れちゃったな。


年上であることは間違いないが、20代後半といったところだろうか。


まだまだ謎のベールに包まれているし、私たちの関係性もぼんやりしたものだけれど、着々と距離が縮まっているはずだ。


でも、どうして迷惑がられなかったのだろう。


私と向き合おうとしてくれたことを不思議に思った。



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