「あ、もしかして一人ラブホ?」


「なっ!!??」


やっと私の目を見たと思ったら突拍子もないことを言うものだから、口があんぐりと大きく開いた。


「何だよ図星?変わってんな〜お前」


そう言って再びタバコを口に咥える。


「ち、違います!そんなの興味ありません!」


「へ〜、ハタチなのに?」


初めて会った時、自分のことを名乗らずに人の情報ばかりを聞き出そうとする私に、非論理的だと示した彼。


名前と年齢を教えたのだが、まさか私がハタチであることを覚えているとは…私の声なんて耳に届いていたのかも危ういのに。


少しだけ嬉しくなった。


彼にとってはどうでもいい私の情報をこうして覚えてくれていた。



「ハタチを一括りにしないで下さい」


変なことに喜んでいると悟られたくないが為、無理やり冷静を装った。


「あっそ。で、何の用だよ」


ここで『さようなら』なんておかしいだろうし、『ちょっとお話しましょ』なんて怪しいだろう。


短時間で考え抜いた返しが…


「私、友達居ないんです」


それこそどうでもいい。


そもそも会って間もない人に言うことではない。


友達が"少ない"ではなく"居ない"だから、そうとう問題がある女だと思われてしまっただろう。



「…は?」


想像していた通りのリアクション。


さっき彼が『一人ラブホ?』と聞いてきたときの私のそれと全く同じだ。


鋭い目が驚きで開かれる。


「居ないんです、友達」


「何なんだよお前。変な奴だな」


「そんなの知ってます。私は変な女です。だからこうして、一人であなたに会いに来たんです」


「いや、ますます意味わかんねぇ」


彼は上着のポケットから携帯灰皿を取り出し、タバコを押し付けた。


『どけ』と私の横を通り過ぎようとする彼の腕を咄嗟に掴み、その動きを制す。


「何だよ」


「こ、この前あなたに私の心を見透かされて…!だからあなたに、私のことどれだけ分かるか、試してみたいんです!!」


言っている本人が自分の言葉を理解していない。


結局、何が言いたいんだ。



「何だよめんどくせーな。別に見透かした覚えはない」


「いえ!あなたは私に『心が泣いている』と言いました。自分では認めたくなかったんですけど、その通りだったんです。顔には出していないつもりだったのに、あなたにはそれが分かった。しかも、会ったばかりのあなたに…」



開きっぱなしの水道から水が流れ出すかのように、次から次へと言葉が口から漏れていく。


彼の腕を掴む手にギュッと力を入れると、彼は観念したかのように私の方に向き直した。



「…ったくよ。俺はお前の相談係じゃねぇんだよ。それに俺は超能力者でもない。あの時顔に出していなかっただ?俺には物凄く泣きたそうな顔に見えたけどな」



瞳の冷たさの奥に僅かに感じる温かさ。


都合のいい解釈になっているかもしれないが、もしかしたらこの人は私のことを理解してくれる数少ない人物の一人になるのではないのかと思った。