「そんなの!不公平じゃありませんか!」


目線を彼の方へ向けたまま走っていたため、足元に不注意になり躓く。


「うわっ」


思い切り両膝をついてしまい、激痛が走る。


ヒールなんて履いてくるんじゃなかった…



私が転んだことなんてお構いなしというように、彼は振り向くどころか一切のリアクションも見せず、ただ前を向いて歩いていた。





あの人と会うことは、もうないのだろうか。


この辺りにキャバクラなんてあったのかもわからない。


そこに行けばもしかしたら会えるかもしれないけれど、私が踏み込んではいけない世界のような気がした。


名も知らぬ彼の顔、声が脳裏に焼き付いている。


だんだんと遠くなっていく彼の姿が遂に見えなくなったところで、私はゆっくりと立ち上がった。


スカートについた汚れをはたき、痛みを感じる膝に目をやると、じわっと血が広がっていた。



「痛いな…」



車も通らず、人も居ない静かな道路の真ん中で、私はぽつんと佇んでいた。




出会いはこんな感じ。


まさかこの後、"あの人"と深く関わっていくことになるなんて、この時は思いもしなかった。