……嫌だ。嫌だよ。


また、前みたいに喧嘩するのは嫌だ。


あんな想い、もうしたくない!!



「貴兄!!」


貴兄の背中に向かって力一杯右手を伸ばす。



届かないってことぐらい百も承知。


あたしは今、貴兄の身体を掴む為に手を伸ばしてるんじゃない。


貴兄の“心”に手を伸ばしてるんだ。



“行かないで”

“戻ってきて”

“喧嘩しないで”



言葉にならない想いが頭の中でぶつかり合う。



「貴兄!貴兄!!貴──」


──パタン。


貴兄達が扉の向こうに消えたと同時に、拒絶する様に閉められた扉。



「……っ、貴、兄………」


扉が閉まった瞬間、あたしは糸のキレたマリオネットの様にドサッとその場に音を立てて崩れ落ちた。



貴兄、なんで──



唇が小さく揺れ動く。


もう、声を出す力も残ってはいなかった。


叫び過ぎて喉が痛い。



「うぅ……」


貴兄は、あたしがどれだけ叫んでも一度も振り返ってはくれなかった。


今まで幾度となく呼んできたが、振り返ってくれなかった事など一度もない。



心に重石がズシリとのし掛かる。



「………っ、」



込み上げる涙。


もう、抗争を止める術が思い浮かばない。


何も思い浮かばないよ……。