初めての一人旅。

しかも行先はまだ行ったことも見たこともない王都パルテナ。


無事にたどりつけるかという不安で胸がいっぱいになる。


どうかあなたに会えますように。

どうかあなたが私を覚えてくれていますように。


祈るように、リルはペンダントを握りしめていた。


村を出て少し広い場所に来ると孤独感はさらに増していった。

それは人通りが圧倒的に少ないだけではなく、この朝霧のせいでもあるだろう。


アルトワールの朝霧は5メートル向こうの世界を隠してしまう。

それはまるで世界が半径5メートルに狭まったみたいなのだ。

薄ぼんやりとした霧の中、行き交う馬車はみなランプに明かりを灯していた。


1カ月に1度、王都へ行ける馬車がこの村を通る。

馬車を逃さないように、リルは目を凝らしてずっと馬車を待った。

何台か荷物や出荷する花を運ぶ馬車が行ったり来たりして、ようやく王都行きの馬車はやって来た。

馬車に見えるようにリルが手を振ると、しばらくしてリルの目の前でそれは止まった。


「おじさん、これは馬車?」

ひょっこり顔を出した馬借のおじさんに問いかけると「そうさ、見ての通り」と答えた。


「王都まで行く?」

「ああ、そうさ」


リルはその答えを聞いて安心した。良かった、これで王都まで行ける、と。


「おじさん、私王都に行きたいの」

「はいよ。おじさんが連れてってあげよう。さあ乗った乗った」


馬借のおじさんは目を細めて笑う。

リルもそれに微笑み返して馬車に乗り込んだ。