普段は満員電車で通学するのだけれど、時折こうやって憂鬱なときは彼に自転車で送ってもらう。

わたしと彼の学校は自転車で5分くらいの距離にあるから、ついでだ。……なんて、そんなの言い訳。



「夕李(ゆうり)」



「んー?どした?」



学校のすぐそばでわたしを下ろしてくれた夕李。

おかげで同じ高校に通う子たちの視線がちょっと痛いけど、気にせず駆け寄って彼を見上げた。



「……ありがと。好き」



「……お前なあ」



こんなときに言うなよ、と小突かれて。

俺も、と笑ってくれるからその笑顔がまぶしさに鼓動が速まる。「じゃーな」と手を振る彼を見送って、わたしも学校に足を踏み入れた。




わたしの高校はもともと女子校だったから、女子の制服はセーラーで男子はブレザー。

ミスマッチなそれも1年とすこし通えば、随分と見慣れるようになった。とくに今の季節はみんなブレザーを着ていないから、真っ白なシャツがセーラー服と並んで綺麗だ。



「お。おはよ〜、ひの〜」



慣れた廊下を進んで、教室に入った途端耳を撫でるゆるい声。

声の主に「おはよう」と返しながら駆け寄れば、持っていた扇子でひらひらと扇いでくれた。完全に熱風だけど、ときどきちょっと涼しく感じる。



「今日はめずらしく死んだ顔してないじゃねえの」



そう言ってちょっとずれていたらしいセーラーのスカーフをなおしてくれるのは、幸塚(さちづか)みや。

ふわふわの天然パーマは甘いキャラメル色で、溢れ出る色気に女の子たちはメロメロ。一言で言えば女たらし。



だけど本人はそこまで女の子に執着とかないらしい。

マイペースにゆるーく話すみやのテンポも、女の子たちは好みらしいけれど。……そもそもみやの髪って、天然パーマじゃないのよね。



「うん、

今日は満員電車に乗ってないもの」