例えば、こちらを見上げて来るあの瞳。

物言いたげな顔…というのはどんな動物でもあるものだとは思うが、普通のそれとは少し違う気がするのだ。

まるで、こちらの言葉を全て理解しているかのような…。

何もかもを分かっていて訴えて来るような、そんな瞳。


思わず子猫の、その真っ直ぐな瞳を思い出しかけた所で、朝霧は不意に足を止めると頭を軽く振った。

「らしくないな。それだけではあまりにも漠然としてる」

自分でもそれは解っているのだ。


だが、普通「じっとして、そこで待っていろ」と言われても、動物がそれを守ることは難しい。

長く生活を共にし、飼い主との意思疎通が既に出来ているような犬や猫とかであるなら、まだ話は別だが。

だがアイツはまだ生まれて2、3カ月程度の小さな子猫なのだ。

性格にもよるが、基本的に子猫は何事にも興味津々で普通なら一定の所にさえ留まっていることは難しい筈だ。

だが、アイツは「待ってろ」と言えばじっ…とこちらの様子を見ながら待っている。

「いくぞ」と言えば、すぐに返事をしてついて来る。

それも後を追いかけて来るのではなく、横について歩くのだ。


そこまで考えかけて再び朝霧は足を止めた。

「もしかして…。これは『親バカ』ならぬ『飼い主バカ』という奴か?」

何だか自分の考えてることが子猫可愛さからのひいき目…。

いわゆる盲目的な見解になっているような気がしてきた。