だが、その人物がいったい誰なのか。

その顔を見れば一目瞭然だった。


(朝霧のお父さんだ…)


「へぇー珍しいね、ウチに猫がいるなんて。いったい何年振りだろうね?」

朝霧の父親は嬉しそうに笑うと、固まっている実琴を覗き込むように傍に屈み込んで来た。

人好きのする笑顔で「おいで」と手を伸ばしてくる。


優しい笑顔。

顔は似てても、だいぶ朝霧とは違う印象だ。


その目前の人物の想定外の柔らかい雰囲気に圧倒され、実琴は尚更目を丸くして動けずにいた。

(このお父さんにして、あの息子とは…。意外だ…。意外過ぎるっ!)


「ああ、その子は伊織坊ちゃまが最近拾ってきた子猫ちゃんなんですよ。お名前はミコちゃんっていうんです」

千代が丁寧に紹介してくれる。

「ほぉ?伊織くんが?それは珍しいね。何か心境の変化でもあったかな?」

面白そうにクスクス笑っている。

(あ…でもこの笑顔は少し似てるかも)

子猫限定で見せてくれる朝霧の貴重な笑顔を思い出して、実琴は僅かに胸をドキドキさせた。


手を伸ばしても特に抵抗を見せずにいる子猫の様子に朝霧の父は、そっと慣れた手つきでその身を抱え上げた。

そして大きな手で優しく撫でてくれる。

「うん、良いコだ。よく人に慣れているね」

だが、不意に目線の高さまで持ち上げると、じっ…と観察するように実琴の目を見て言った。


「ん…?このコは…」