『それでも…朝霧は幸せ者だよ。こんなに優しい千代さんがいてくれるんだもん。不満なんて言ってたらバチが当たるよ』

誰に言うでもなく呟くと、その千代の小さな背中を見つめた。


それなのに、何故あんな無愛想な毒舌男に育つのか意味が解らない。

(もしかして、遅い反抗期とかだったりして…?)

そんなことを本人を前に言おうものなら、もの凄く恐ろしい顔で睨まれてしまいそうだけど。

実琴は可笑しくなって、くすっ…と小さく笑った。



「にゃあ、みゃあ…にぃ…」

「なぁに?ミコちゃん、どうしたの?」

背後から今まで静かだった子猫の声が聞こえて来たことで、千代が手を止めて優しく振り返ってくる。

「みー」

実琴は『何でもないよ』というように笑顔で返事を返すと、千代は「いい子ね」と笑って再び料理を再開した。




穏やかに時間は流れてゆく。

学校は、もうすぐ6時限目に入る頃だろうか。


(私…こんな所でこんな風にのんびりしてて、いいのかな…?)


本当は不安で一杯だった。

自分の家族は今頃どうしているんだろう?とか。

目を覚まさずにいる自分に悲しい思いをさせてはいないだろうか?とか。


(きっと、心配…掛けてるよね…)


考えれば考えるほど何だか申し訳ない気持ちで一杯になって。


だが不意にまた眠気が襲ってきて、実琴は突如重くなった瞼に抗うことも出来ず、そのままゆっくりと瞳を閉じた。


次に目が覚めたら…。

今度こそ元の身体に戻っていることを願って。