約束の試合の日。
あの子は、またフェンスの向こう側にいた。
いつもと同じ白いキャップを被って。
少し大きめのパーカーに、短パン。
短パンから出る足は、寒くないのだろうか。と心配になるほど細かった。
「さ。今日の相手は山根工業。昨日伝えたとおり、ピッチャーの端島のフォークには気をつけろよ」
始まった試合は、ゼロゼロの均衡試合。
うちのピッチャーは、そこそこに相手打線に捕まりながらもバックの助けを借りてなんとか乗り切っている。
「そんなに上手くは行かないか...」
後半になるにつれ、相手打線もうちのピッチャーを完全に捉え始めた。
結局、試合が終わってみれば5-2。
次の試合、いつだったっけ...
「あ、あのっ!」
「あっ??」
次の試合のことを考えて、集中しすぎてしまった。
思わず出たのは怒っているような、低い声。
ふと顔を上げると、あの子がいた。
「あのっ、マネージャー...」
「あ、ごめん、その...」
「その...やります!私、野球部の...マネージャー、やります!」
澄みきったきれいな声が、晴れ渡った空に、伸びやかに響いた。
その響きが、とても心地よいと思った。