駅までの道、特に話すことが見つからず、沈黙が続いた。

もとから無口な青くんなので、会話がないこと自体は珍しくもなかったのだけれど、私はなんとなく、あの女の子たちに大事なものをぶち壊されたようで気持ちが沈んでいた。


『どう思った』


静かな住宅街を抜ける、駅までの通学路の途中、青くんが突然そう聞いてきた。


『どう、って?』


聞き返しても、白い息を吐いて、ポケットに両手を突っ込んで歩くだけで、なにも答えてくれない。

さっきの女の子たちの話のことだと想像はついた。陰口や噂話というもの自体が好きじゃない私は、正直に『不愉快』と答えた。青くんはちらっと私を見て、『そうか』と小さくつぶやく。


『青くんは?』


なんでそんなことを聞いたのかな、と疑問に思いつつ、同じ問いを返すと、彼がふっと視線を落とした。

最低限の街灯だけが道をところどころ青く照らし、影になった部分はタールを流したみたいに黒々としている。

駅の明かりが見えた頃、ようやく青くんが口を開いた。


『よく見てるなって、思った』


ふいに足を止めて、まっすぐ見つめてきた目を今でも忘れない。

ねえ青くん。あれはどういう意味だった?

* * *

紅未子の机の中に押しこまれている雑誌を取り出して、ぐしゃぐしゃになった表紙をぐいと手で伸ばした。そこで笑っているのは、美しくあどけない紅未子だ。

その上には赤や黒のペンで、読むに耐えない悪口雑言が書き連ねてある。"バカ"はあっても"ブス"はなく、やっぱりあまりに真実と遠いと、嫌がらせとはいえ書けないのかなと妙な律義さに感心した。

誰だか知らないけれど、毎月毎月、発売日にきちんと買っては朝早くにこうして突っ込んでいくんだから、本当に律儀だ。

私は雑誌が紅未子の目に入らないよう、旧焼却炉の前のごみ集積スペースまで捨てに行った。