「…………林檎様っっ!」



泣き出しそうな守衛の娘が林檎を呼び止める。
足を止め、話を聞こうとするあたりは流石上流階級の出か、佇まいは美しい。



「私を疑わないのですか。お妃様に通じているのでは、と」
「…………問うて欲しかったの?違うわよね、貴女はいつも強かった」
「林檎様の思い違いです。私は強くなんて……!」




そうかしら、と林檎が戻ってくる。
少し乱暴な手つきで守衛の服を破くと、守衛が隠そうとした傷を皆に見せ付ける。




真新しい無数の青痣に顔を背けることなく、しかし取り乱すこともない。
ただただその痣を見つめ、おもむろにそれを摩ったかと思えば、林檎は彼女に頭を下げた。



「痛かったでしょう?昔から痛いのが苦手な貴女がここまで痛め付けられているのよ。そりゃお妃様に通じていることを疑うのが普通よ?それでもあたしは貴女を疑いたくない。何故か解るかしら?」
「いいえ、解りません。何故林檎様を貶めるかもしれぬ者を信じようとなさるのですか」
「それはね、お母さんを失った時、貴女とお兄さんがあたしを助けてくれたからよ」




ただ、それだけ。
そう告げる林檎は綺麗で、もし警備隊長の妹に騙されても構わない、そんな強さが伺えた。




「…………お行きください。この扉を長いこと開けているとお妃様にバレてしまいます」



林檎や俺たちを半ば強引に押し込むようにして、守衛の娘は扉を閉めた。
姫様を頼みます、と林檎には聞こえないように小声で俺に伝えながら。