「困ったな……。どうしたら信じてもらえるだろう」


大和さんは後頭部を掻きながら思案顔。


「もう一度、キスをして下さい……」


困り顔の彼に向けて、樹は提案した。



“嫁入り前の娘がはしたない!”



死んだおばあちゃんならこう言うのだろう。


でも、あの柔らかい温もり。


再びそれを得られたならば、この現実を正しく受け止められる気がした。


「仰せのままに」


大和さんはまるでどっかの国のお姫様でも相手にするみたいに言う。


「目を瞑って……」


樹は言われた通りに瞼を閉じた。


肩に手が添えられ、二度目のキスが落とされる。



たとえ、勘違いかもしれなくてもこの恋を貫きたい。



大和さんが好きだと言ってくれる限り、樹自身も彼の事を好きでいようと思う。



そう……これは誓いのキスだ。



「大和さん、大好きです」


樹は彼の顔を真っ直ぐ見つめて伝える。


大和さんは優しく微笑むだけで何も言わなかった。


その代わり、樹の身体を抱き締めた。


言葉はいらない。


そう思ってしまうほど今夜の月は温かく、彼女の心を明るく照らしていた。