出稼ぎでも、と言いかけた唇は彼の手によって蓋をされる。
彼はあたしが森を出ることの何に怯えているのだろう。
彼はあの人と知り合いではないし、あの人のことは言っていないのに。




「お前馬鹿なの?箱入りが街になんて降りても意味ねぇっつの。仕事増やすな」
「はぁ?馬鹿には箱入りとか言われたくない!閉じ込めることしか知らないくせに」




本当はそんな罵倒、するつもりは無かった。
いくら自分の毒舌を認めているとはいえ、やりすぎのボーダーラインくらいは解っているつもりだった。




それでも彼に頼られたかった。
ご飯や掃除だけでなく、1人の女として彼に頼られたかった。
居候の扱いとしてでも良いから、多少は。




彼はあたしに家事以外のことは絶対にやらせようとしなかった。
内職を手伝おうとしたら、部屋に監禁されそうになったこともある。



そんなに頼りないのだろうか。
確かにあたしは彼と違って女で、弱くて脆いけれど、それでも意思は人一倍だと思っているけど。




「そんじゃ俺仕事してくるから。絶対家を出るなよ?」




家を出たら仕置してやる、なんて独占欲で創造されたセリフをサラリというくせに、あたしのことは好きだと言わない狡い彼。
いや、本当にあたしに恋愛感情なんてないのかもしれないけれど、だとしたらどうして彼はあたしを森から出そうとしないのだろうか。




「六花の役に、立ちたいなぁ……」




届かないそれは涙を見せられないあたしの涙。
どうか彼は、彼だけは、幸せになれますように。