「そうだよ、百井くんはわけもなく絵を壊すような人じゃない。そんな人じゃないよ、見てればわかるもん」


ふるふると頭を振って、偶然耳にしてしまった話の内容を頭の外へ追い払う。

けれど、それでも頭から離れてくれないのは、ふたり並んで帰っていく百井くんと実結先輩の姿だった。

こればかりは、どういうわけか追い払うことができなくて。

もう見えるはずのないふたりの姿をそれでも見たくなくて、じっと下を向いて家路を急ぐ。


「恋、なんだろうなぁ……」


十字路で信号待ちをしていると、ふいにそう、素直に言葉にすることができた。

今まで気づかないふりをしてきたけれど、さっそく失恋だけど、百井くんと関わりたい理由にやっと名前をつけることができて、肩の力がふーっと抜けたような、胸にすとんと落ち着いたような、そんな気分だ。


写真館兼自宅の〝百ノ瀬写真館〟が見えてくる頃になると、雨はいよいよ本降りになっていた。

無理な恋はしたくなかったのに、これじゃあ結局、百井くんの片想いと同じじゃん……。

そう思ったらちょっと涙が出て、慌てて鼻をすん、とすすった。