あれは、お父さんに何かが起こるっていう前触れだったのかな。


「あたし、ホントになにも出来なくて。ゆりは泣きそうになりながら『大丈夫?』って声をかけてたんだけど……」


情けないことに、固まることしか出来なかった。


でもね、胸の奥がヒリヒリして、何か言うと涙が出そうだったんだ。


「ビックリした時ってそういうもんだろ。ゆりちゃんの方が珍しいタイプなんだと思う。だから、気にすることないよ」


「そう、かなぁ……」


「うん。さほなんてオヤジをバイ菌扱いだぞ。見てるとかわいそうになってくる」


さほちゃんはひとつ下の万里の妹で、ゆりの一番の親友でもある。


「さほちゃんも思春期ってやつか……」


「そうそう。常にピリピリしてる。るりも、あんまり思い詰めんなよ?いつでも話聞くし」


万里の大きな手があたしの頭をクシャッと撫でた。


「ありがとう……」


やっぱり、万里は優しいね。


不安が一気に吹き飛んじゃった。


でも、胸の痛みはなくなってくれない。