癌……?
ドクドクと鼓動の音が大きくなっていく。
「この前、胃の調子が悪くて病院に行ったの。検査をして、今日はっきり癌だと診断されたわ。かなり大きくなってるから、手術しなきゃいけないんだって」
「ウソ……お父さん、大丈夫なの?」
涙目になるゆりの傍らで、身動きひとつ出来ずに固まる。
お父さんが……ガン?
なんで……?
どうして?
ただ信じられない気持ちでいっぱいで、ゆりとお母さんの会話をどこか遠くで聞いていた。
お父さんは顔色ひとつ変えずに黙々と座っている。
お父さん……。
「るり、心配するな」
「え……?」
「お父さんは大丈夫だ」
お父さんはあたしに向かってニッコリ笑ってみせた。
怖くないの?
なんで……笑っていられるの?
癌って、ホント……?
そのあと部屋に戻って、頭から布団を被って小さくうずくまった。
胸が押し潰されそうなほど痛くて、どうしようもない。
考えないように思い出さないように、ギュッと目を閉じた。
ヒリヒリ、ズキズキ。
胸の痛みは引いていくどころか、ますます大きくなっていく。
どうして……?
うっとおしいと思っていたはずだったのに、お父さんのことが頭から離れない。
目を閉じていても浮かんで来る眩しい笑顔。
遠い昔の楽しかった思い出が蘇る。
笑うと目がクシャッとなって、目尻にたくさん笑い皺が出来るお父さんが大好きだった。
大工として働いているお父さんは作業着姿で仕事に向かい、毎日クタクタになって帰って来る。
そんなお父さんの手や服からは木の良い匂いがして、その匂いに包まれるのが好きだった。
黒ずんだ大きな手で頭をガシガシ撫でてくれたり、ほど良く筋肉がついた腕にぶら下がったり。
思い返せば、昔はかなりのお父さん子だったあたし。