どういう事情から旧校舎の美術室を使うのかとか。
偶然居合わせただけのわたしに、どうして掃除を手伝わせようと思ったのかとか。
――あのスケッチブックの彼女のこととか。
聞きたいことはたくさんあるけれど、でも、今はもう使われていない美術室で絵を描きたい百井くんの気持ちも、なんとなくわかるから。
それに、わたしにだって、話したくないことのひとつやふたつ、普通に持ち合わせているわけで。
「掃除が終われば、百井くんとはもう関わることもないだろうし、あんまり詮索するのはよそう」
そう結論付け、「あら、遅かったのね」と、晩ご飯の支度の真っ最中なのだろう、濡れた手をエプロンの端で拭きながら台所から顔を出したお母さんに、
「ちょっと部活の手伝いをすることになってね。明日からしばらく、帰りはこの時間になりそう」
と、笑って答えた。