「毎年思うことだけどさ、夏休みって本当あっという間だよな」


私が作業するのを横から眺めながら、頬杖の彼方くんが言った。

私は細筆で差し色を細かく入れながら頷く。


「ほんと早いよね。この前終業式やったばっかりって気がするのに、もう来週には始業式だもんね」

「だよなあ。でもまあ、どうせ俺らは毎日来てたから、学校始まってもあんまり変わらないけどな」

「ふふ、確かに」


と笑いながらも私は、彼方くんがさりげなく『俺ら』とまとめてくれたことに心が躍るのを感じた。


いつの間にか八月末になり、夏休みも終わりが見えてきた。

二学期になったら約一週間後には文化祭。

そろそろ本腰を入れて作品を仕上げないといけない。


いつものように午前中から絵を描いていたら、昼過ぎになってひょっこりと彼方くんが顔を覗かせた。

これから陸上部も練習があるらしい。


でも、彼の様子がいつもと違うのを私は初めから感じていた。


普段なら十分ほどで美術部の見学を切り上げてグラウンドのほうへ行くのに、

今日はもう三十分近くもこうして私の作業の様子をぼんやり見ているのだ。


正直、嬉しい。

一分でも、一秒でも長く彼が横にいてくれるのは私にとってすごく嬉しいことだ。


でも。