『電話していいとき教えてー』


可愛らしい絵文字とともに、そんなメッセージが送られてきていた。


遥らしい気づかいだな、とおもう。

彼女は相手の都合を気にして、いきなり電話をかけてくるようなことは決してない。


私は携帯を握りしめたまま外を見た。

彼方くんが助走をしているのに気づいて、跳ぶ姿を見てしまう前に視界から外した。


迷いが生じてしまう前に遥に電話をかける。

すぐに通話がつながった。


『もしもし、遠子?』

「うん。メール見たから」

『こっちからかけたのに。今、話しても大丈夫?』

「うん、大丈夫」

『部活中じゃなかった?』


どこまでいっても気づかいを忘れない遥。

完璧な優しさ。


それを尊敬しているけど、心からすごいと思うけれど、今はとても、苦しい。


「……うん。そうだけど、休憩中だから大丈夫だよ」


電話越しに微笑みながら私は答える。

画材が入った棚の硝子戸に、下手な笑顔が映っていた。


遥からの電話は、香奈たちとの遊びの誘いだった。

行っておいたほうがいいとは思ったけれど、どうしてもうまくやれる気がしなくて、部活を言い訳にして断った。


電話が切れたあと、無意識に彼方くんを見る。


あれは夢、と私は心の中で呟いた。

夢だから、一瞬で消えてなくなる。


だから、今だけのこと、と自分に言い聞かせた。