アーチの荊棘を手入れして、外の空気を肌で感じた。
そよそよと風に凪ぐ木々たちの挨拶を右から左に流して笑う。




彼は、あたしをどう思っているのだろうか。
愛されている、なんて自惚れは言わないけど、少なくとも嫌われてはいない……筈。



「林檎ー!木苺取ってきたぞ!」



何故か泥だらけの彼が籠いっぱいの木苺を得意げに見せ付ける。
あたしと彼の好物である木苺のパイを作ってくれと数分後に迫るだろう彼に、苦笑する。
沢山取ってきてくれるのは嬉しいけど、痛む前に食べきれるかしら。



「お前手入れ下手なんだなー。ちゃんと手入れしろよ」
「五月蝿いわね、ちゃんと手入れしてるわ。ほら、昨日より綺麗になったでしょ」
「お前はいつも綺麗だろ、とでも言ってほしいのか。言うわけねぇだろ馬鹿」




噛み合わない会話にアタマが痛くなると同時に虚しくなった。
あたしが言っているのは荊棘のアーチの手入れのことで、多分彼が言いたいのはあたしの……顔の手入れのこと。



どっかの誰かさんのために頑張ってるのに見向きもせずに突き放すなんて本当に酷だと思う。
それでもやめられない〝好き〟があって、あたしがそれに羽交い締めにされるのを彼は高みから楽しんでいるのだろう。うん、きっとそうなのだ。



「今日のおやつは木苺のパイな」
「たまには六花が作ったら」
「お前は俺に殺されてぇのか」
「あの人に捕まって殺されるくらいなら、六花が良いな」




慌てて口を抑えたけれど、彼が〝あの人〟の追求をすることはなく、部屋に引きこもってしまった。
多分この森で暮らしていくための内職をするのだろう。
毒を吐いて笑うあたしを、養う為に。



いつかだったかこの森を出て稼ぐと言ったら、彼は怒鳴り散らして気に入りの湯のみを割ったことがあった。
あたしがこの森を出ることは彼によって禁じられているから、彼の稼ぎに頼るしかない。




「……あたしだって六花のためになりたいのにな」
「パイが出来たら呼べよ、林檎」
「解ってる。ほんと意地汚いんだから」




扉越しのあたしの罵声に、彼は何を思うのだろうか。
不器用なやつだと、微笑って赦してくれるだろうか。
ウザイやつだと嘲笑うのだろうか。



ねぇ、貴方はなんであたしを閉じ込めるの。
〝あの人〟を知らない筈の彼は、あたしを何から護ろうとしているの。



それが解れば苦労しないのに、とオーブンの前で溜息をひとつ。
呼応するようにオーブンがぽーんと間抜けに泣いた。