私にできることは、なんとか彼のことを忘れようと努力することだけ。

それができなければ、彼への想いを胸の奥底に押し込めて、飲み込んで、誰にも知られないように隠し通すことだけ。

何があっても決して遥にだけは知られないように。


そうしているうちに、きっと、この想いは薄れていってくれるはずだ。


「……まあ、お前がそれでいいなら、いいんだけどさ」


深川先輩が肩をすくめて言った。


「でも、そうやって他人のために自分の気持ちを押し殺して生きていくやつは、いつか絶対、耐えきれなくなる。人は自分の本心を殺しながら生きていくなんて、できない生き物だから」


悪い予言のように、先輩は静かに私に告げる。


「いつかきっと、心がぼろぼろになって崩れ落ちて、破滅する」


確かにそうかもしれない、と私は思った。


どこか遠いところで、楽しげな笑い声が弾けるのが聞こえる。

部活生たちの声だろう。


「……いいんです、それでも」


唇の端に笑みが滲むのを自覚しながら、私は答えた。


「いつか私が壊れてしまうとしても、遥だけは傷つけたくない」


だから、私はこの恋心を絶対に隠し通してみせる。


「あっそ。ま、好きにすれば」


先輩は呆れ返った面持ちで言った。