「靖人―!」

「うわっ、わ、ちょっ…ちょっ」



思わず抱きつくと、ものすごいうろたえた声があがる。

なんて冷静で、いい奴なんだろう。


なっちゃんがあの後さらに熱く語ってくれたところによると、この間の試合、相手を0点に押さえきったのは、靖人の捕手としてのリードが巧みだったことが大きいらしい。

自分たちが格下であるのを利用して、相手のちょっとした油断をうまく突く配球をしたんだとか。

試合の翌日にはマネージャーから試合記録を見せてもらい、そこまで見抜いたというんだから、なっちゃんは野球好きというよりもはやただのオタクだと思うんだけど、どうかな。



「いく、古浦、離れて、頼むから、みんな見てるから」

「私が保証するよ、靖人はきっといい先生になる」

「俺、別に教師目指してない」



その言葉は無視し、感謝の気持ちを込めて、腕を回した背中をぽんぽんと叩いた。

ついに私を力ずくで引っぺがした靖人が、真っ赤な顔で怪訝そうにこちらをうかがってくる。



「お前、なんか変じゃないか?」

「そう?」

「健吾くんとなにかあったか」

「その話続けるなら、もう一回抱きつくけどいい?」

「いや、やめて」



冗談に紛らせてはみたものの、私は笑えていなかった。



「…どうしたよ」

「なんでもない、ちょっと、バカやって怒らせただけ」



気を抜くと涙が出そうで、唇を噛む。

並んで歩く靖人が、そんな私を見て、優しく頭を小突く。



「高校生相手に、怒ったりしねーんだろ、健吾くんは」



学校じゃなかったら、きっと泣いていた。





「どうしたのお兄ちゃん、フローラル!」

「いやこれ、お前がやったんだろ?」



私より早く帰っていた兄が放つ、強烈な香りに仰天した。

いい匂いなんだけど、いくらなんでも強すぎる。

兄も気になるようで、Tシャツに鼻を当てて顔をしかめている。