確かに、自分の喫茶店を持つというのが美樹の昔からの夢だった。
 初対面のこの人にズバリとその夢を言い当てられたものだから、つい。


「あ、はい」


 なんて答えてしまったのが、運が良かったのか。
 それから、何が何だか分からないうちに話はトントン拍子で進み、気が付いたらこんな素敵な喫茶店のオーナーになっていた。
 だがもう23にもなれば、こんなうまい話にすぐに飛び付くほど世間知らずではないが・・・中川美恵子と名乗ったあの老婦人は、不思議と嫌な感じが全くしなかった。
 話をしていて、むしろどこか心地よさを感じて、しかも幸せな気持ちにまでさせてくれた。
 まるで魔法にでもかかったように、つい彼女に言われるがままにこの喫茶店を経営することになった。
 まだオープンしたばかりで、客足は全くイマイチなのだが・・・信じられないくらい家賃が安いので、計算上問題はない。
 1週間経っても未だに夢の中にいるような気がしてならないが、毎日同じ時間に店を開けて、同じ時間に店を閉める。
 もう夕暮れ時で、今日もまた閉店の時間になった。