「お兄ちゃんとなに話してたの」

「いや、犬の件で、治樹くんがわざわざうちに、店のテイクアウト料理を届けてくれたんだよ、今日」

「あっ、そうだ、話したら、お礼しなきゃなって言ってた」

「で、そのお返しにお菓子を預かってきたの」

「え、もしかしておばさんのケーキ?」

「そうだよ」

「早く言えバカ!」



部屋を飛び出して1階に駆け下り、キッチンに向かった。

兄がホールのベイクドチーズケーキを切っているところだった。



「あの、私、120度くらいで」

「チーズケーキってカロリーすごいぞ、言っとくけど」

「そのぶん靖人は15度くらいでいいから」

「それ、なんの帳尻も合ってないからな」



ため息をつきつつも、オーダー通り、私のお皿にはどっさり全体の1/3を、靖人には倒れそうなくらいの薄切りを載せてくれる。



「そういや、おばさんがすっごい浮かれてたんだけど」

「うん?」

「お前と一緒に犬を連れてきたイケメンて、誰のこと?」

「あー…」



やっぱりそう来るよね。

兄には、事故に遭った犬を拾って、困っていたら靖人の家が預かってくれた、というざっくりした説明しかしていなかったのだ。



「…困ってたとき、助けてくれた人」



嘘はついていない、と自分に言い聞かせながらの返答だったものの、兄は納得したようで、ふうんとうなずく。



「お前、変な知り合い多いもんな」

「だてにバイトしてないからね」



ケーキ皿をフォークと一緒にトレイに載せて、グラスもふたつ置いて、冷蔵庫から牛乳パックを取り出して脇に挟んで逃げるように自室へ上がった。



「マジでそれ食うの?」



トレイを見て、靖人が信じられないという顔をした。