隣の家に住んでいる幼馴染みの井川翔太。
産まれた時からずっと側にいてくれた男の子。

そんな兄妹のように育った彼の事をこんなに愛しいと思ったのは一体いつからだろう?
翔太はいつも優しい男の子だった。
私がいじめっ子にいじめられてた時も守ってくれたし、
私の上履きが隠された時も、夜になるまで探してくれた。
勉強が苦手だった私に一生懸命教えてくれる、
頭もいいし、運動神経バツグンな翔太が私の自慢だった。
けど、ただの幼馴染み。それだけだったのに。

多分、翔太のことを異性として意識するようになったのは…。そう、あのとき。

中学に上がってすぐに私には好きな人ができた。
その相手は同じ演劇部の先輩で、高身長でいわゆるイケメンと言われる部類に入る相手で、部員の何人かも先輩に夢中で、私もその中の一人だった。
先輩に会いたくて会いたくて、ただそれだけで毎日部活が楽しみで…。
でも、先輩には彼女がいることが分かって。
その日校舎の隅でめちゃめちゃ泣いてた私の前に翔太が現れて。 

「架菜のいいとこはいつも前向きなとこだろう?こんなとこで泣いてんなよ。一緒に帰ろう。」
その時差しのべられた手の温かさを今でも覚えてる。
それから、翔太の事が気になって気になって仕方なくなった。
今まで全く気にしなかった翔太のさりげない仕草とか、何もかも気になり出して。
いつもはほとんど表情を変えないポーカーフェイスなのに、ふとした瞬間に見せる笑顔が可愛くて。

(あ、私、翔太の事が好きなんだ。)
と気付かされた。

だからと言って、すぐに想いを打ち明けるのは違うと思った。
先輩の失恋から、まだ時もそんなに経ってなかったし。 
それに何より、翔太の返事が怖かった。 
幼馴染みと言う関係に守られている方が私にはずっと良かったし楽だった。
告白して最悪の結末になるよりは、このままの関係を続けることを選ぼうとそう思ってたけど…。

高校生になってますますモテだした翔太が女の子から告白される度に気が気でなくなってしまい..。

高校一年生になって初めての夏が来る前に、私は想いを打ち明けた。

学校からのいつも通りの帰り道。
「翔太ぁ。あのね..私。私ね翔太が好き。」
小さな震える声、やっとしぼりだした。
「なんだよ、今さら俺なんて幼稚園の頃からずっと架菜が好きだったよ。」
笑う翔太。
「そういうんじゃなくて、だから..」
真っ赤になるのが分かる。
産まれて初めての告白なのに。
「あっ、えっと。その俺はほんとずっと架菜が好きだった。中学の時、架菜が別の男(やつ)を見てい時だってずっとおまえだけを見てた。架菜は昔も今もこれからもずっと大切な女の子だって気づけよなまったく。」
ちょっとそっぽをむいたような翔太の顔も私と同じくらい真っ赤だった。
本当に嬉しくて嬉しくて、もう何が起こっても大丈夫…確かにそう思っていた。

そうは思っていたけど、こんな想像すら出来ないことが起こってしまうなんて…。
ああ、翔太に会いたい。
会いたくて会いたくてどうしようもない。