「でもね"早く大人になれ"なんて言ってもね、ガキなとこがかわいいよってもう声に書いてあってウフフ」

「声に書いてあんのか、すげえな」

「だから私、焦らないことにしたの。私の成長を待っててくれるって言ってくれたから、あれ、そんなこと言ってなくない?」

「ごめん、お前、気持ち悪い」



渋い顔をする靖人そっちのけで、しゃべりたいだけしゃべった。

私は基本お昼ご飯はひとりで食べるんだけど、今日ばかりは靖人を誘い、中庭のベンチで簡単なお弁当を広げている。

おにぎりと、タッパーに詰めた常備菜。

これが私のいつものお昼だ。



「まあ、お前の不安がなくなったんなら、よかったよ」

「靖人がそんなこと言ってくれるなんて、明日は雨かな」

「梅雨にその言い回しって意味あんの?」



靖人が食べているのは、おばさんの手作りのお弁当。

本当にいつもおいしそうで、崩れないようきっちり詰めてあって、彩りも綺麗だし、運動部の男の子が食べて嬉しいだろうなってものが入っている。



「それで、その犬どうすんの」

「健吾くんがもらい手を探してくれるって言ってる」

「にしたって、それまで飼うのも大変だろ、怪我してんだろ?」

「そうなんだよね…」



健康なときならまだしも、目を離せない子を健吾くんの部屋に置いておくことは、危なくてできない。

費用は痛いけど、シッターさんを頼むとか、考えないとダメかもねと健吾くんともゆうべ話した。

家におおむねシェパードのでっかいミックスのいる靖人が、うーんと膝の上で頬杖をついた。



「もしかしたらうちで預かれるかも」

「ほんと!?」

「うち母親、家にいるしさ。前にいたちっこいのの消耗品とか、まだあるし」

「え、ほんとにほんと? おばさんに訊いてみてもらえる?」

「いいよ、もちろん」



すぐ携帯を取り出して、その場で電話をかけてくれる。

うわあ、ありがとう、ありがとう。

持つべきものは靖人だって、今本気で思ってるよ。


隣で拝んでいると、私の携帯が震えた。

一瞬、靖人がかける先を間違ったのかと思ったんだけど、違った。



【助けて】



健吾くんだった。