私はうつむいてしまったので、健吾くんがどんな顔をしているのかはわからない。

でも私の下にあった手がするりと逃げて、上下を入れ替えるみたいに、今度は私の手の上に重ねられた。

と思ったら、めいっぱい握られた。



「痛ーい!」

「ほんとごめんだよ、このバカ」



反射的に手を引っ込めようとしたものの、レバーごと握り込まれて動かせない。

健吾くんは不機嫌な顔で、私を見ていた。



「確かに、郁にしたい話じゃないなと思ったし、それは郁がまだ幼くて、いろいろ知らないからって理由も、あるにはあるけど」

「うん…」

「でもそれは、郁の言う"ガキだから"みたいな、そんな乱暴な意味じゃないよ、わかってるだろ」



涙が出てきた。

少しでも動いたらこぼれてしまいそうで、まばたきをこらえる。

健吾くんの手が、私の手を優しく握り直した。



「ガキだからって郁が言うのと同じで、俺は大人だから、郁より郁のこと、見えちゃう部分もあるんだよ」



うん。



「郁によくないって思ったらブレーキかけるし、それが今の俺の役目だと思ってるよ。でも俺は別に、そういうの嫌じゃない」



ダメだ。

こぼれた。


健吾くんが困ったように眉をひそめて、シートベルトを外すと、こちらに腕を伸ばして、頭を抱き寄せてくれた。

涙が健吾くんのシャツに吸い取られていく。



「事実、郁はまだ高校生で、子供なんだから、そこを嫌がっても仕方ないだろ」

「でもね…」

「お前がなんか気にしてるの、わかってるよ。そういうのやめていいから。俺別に、郁が高校生なことに不満とかないから」



嗚咽がもれて、自分でびっくりした。

どうやら私、自覚していたよりも不安だったみたい。