窓の隙間から入り込んでくる夏の虫の声。


ここ数日続いている熱帯夜は、扇風機をかけていても手汗でノートがじっとり湿るほど蒸し暑い。



ただでさえ集中力のもたないこんな日、


私の持つシャーペンは動いては止まるを繰り返していた。



「……あーもうっ!!」



私は、自分の額を少し強目に机へと打ちつける。



……ちっとも集中出来やしないっ…。




一文字書けば、一つ思い出す。



思ったより逞しい腕だとか、


彼のイメージとは違う優しい香り。


低く柔らかい声だとか、


子供のように澄んだ瞳……




––––『お前のその空っぽでつまらない世界、

俺がぶっ壊してやるよ』



「……っ」



うわぁぁーーーーーー!


思い出すなってばーーーーー!!



私は、更に三度ほど机に頭を打ちつけた所ではっとする。



「いけない…。脳細胞が減るわ…」


脳細胞が再生する事を祈りながら額を摩った。