そして亜美は暗い階段を
下りる途中で立ち止まった。


自分の唇を軽く触って
キスの感触を思い出す亜美。


余韻に浸っているのだろうか?


新しい恋の始まりに
幸せを感じているのだろうか?


しかし突然亜美は
唇を触っていた手を下ろし


無表情になる。


「勝てないよ」


ポツリとつぶやく亜美。


暗い階段の乾いた空気の
独特のにおいが


鼻につく。


亜美は下ろした手を
じっと見つめた。


「私にじゃんけんでは
絶対勝てない」


冷静な声が
静かな階段に響き渡る。