「美優もあそこへ住む必要はない。ここに、俺の傍に居ればいいよ」




二人の母親__優香は自分と学生の美優が一緒に住んで社会人である悠斗が一人暮らしをしていると言っているがそれは違う。



悠斗が大学を卒業したきっかけで二人の父親は二人にこのマンションを贈り、直ぐに二人は家を出てここに住んだのだ。



母親にはここの下の方の階を借りている、とだけ言っているから母親はこの場所を引き取ってあの家で住めばいいと言っているがそもそも借りているのではなく買っているのだ。



だがそれを悠斗は言わない。最初はあの家に住む話を承諾したフリをしていてもあの家に住む気はさらさらなかった。



それは美優に至っても同じ事であって、あの家に住むことはもちろん悠斗と離れて暮らすだなんて受け入れる気は全くなかった。



自身に縋りついて離れない美優を撫でていた手を止め、そのまま悠斗は美優を抱き寄せた。




「……美優は、俺が守るから」




悠斗の暖かい腕の中で美優の凝り固まっていた恐怖がゆっくりと溶かされていく。



悠斗、悠斗、悠斗。そう心の中でただ悠斗の名前を繰り返し、悠斗のスーツの袖を握ることで悠斗の存在を確かめた。