「俺はお前に聞いてない。」



そう言って私に視線を移す涼介くん。



その空間が怖すぎてつい視線をそらしてしまう。


下向き廊下の床を見つめる。


ぎゅうと締め付けられる胸の痛さに泣きそうになる。



部活をしている声と蝉の声が遠くで聞こえる。






「もういい。お前来い。」






そんな声と同時にふわっと涼介くんの匂いがして、




私の捉えていた視界に、涼介くんの手が私の手を掴むのが見えた。



慌てて顔を上げる。



その刹那、涼介くんは私のその手を引っ張って歩く。




離れていく雅也くんの姿。




そして雅也くんの「頑張れっ」って口パクと、苦しそうな表情。








「(あーあ。ひなに告白されるまえに連れ去られちゃったよ)」


こんなふうに思ってるなんて私は知る余地もない、雅也くんの気持ち。