「円、いるんでしょう」


そう呼びかけてすぐ、大きな教師用机の陰から円が出てきた。

銀色の髪が夕日に彩られている。

「…何で分かった」


「当たり前よ。こういうときいつもいるでしょ、助けもしないで」


「暴力沙汰になりかけたら行くつもりだった」


「……この学院で、暴力沙汰が起こるなんて聞いたことないわ」


私たちの通う飛香学院は大手グループや様々な分野の頂点の子息や令嬢が通う。

礼儀作法や社会で生きるための術を磨く社交場に等しく、一般的な学問に加えてそういうことを体で学ぶのだ。

それ故に揉め事は許されない。

校則にあるわけではないが、生徒の中で一種のタブーのようなものだ。

強者に楯突けばすぐに消される。

そういう暗黙の了解がある。

企業というものは思ったよりも脆い。


「円と話したいなら直接話せば良いのに、私に言うなんて変だわ」


「そうだな」


「円、その髪も変だと思う」


銀色。