「…東の事、俺だと思ったんだろ?」

その言葉に小さく頷く。

「…俺は、13年経った今でも、直ぐに清水さんだって分かったのに」

「なっ。私はあの頃と、全然変わってません。容姿も性格も全部…」

「…俺は、変わったかな?」

「変わりましたよ。あの頃は、ただ先輩としてカッコいいだったけど、今は大人のカッコ良さが出て」

「…そんな事思ってくれてたの?」

自分で言って、恥ずかしくなった。

言うんじゃなかった。

でも、三枝課長の前だと、つい、本音が出てしまう。

真っ赤な顔でアタフタする私を、クスクス笑いながら見ていた三枝課長だったが、突然私を離すと、手を取った。

「あの?」
「さ、帰ろ」

「エッ、いや、駅から私のアパートが近いの知ってますよね?」

「うん、でも、送りたいから行くの。ほら、早く」


言われるままに、手をつないだまま歩き出した私達。


その手を見つめながら思った。三枝課長が、まさか、あの東さんだったとは思わなかった。

…それにまだ、三枝課長に好きだって言えてない。

三枝課長の気持ちだって知らない。


でも今は、こうやって手を繋いでるだけで幸せなだな。

そう思わずにいられなかった。