ハァと一度息を吐きだして、重たくなってしまった気持ちをふっきろうとしたとき、ふわりと甘い匂いを感じた。


ガタンっという音を立てて、隣の席の椅子がうしろに引かれる。


隣の席、誰だろう。


視線をそちらに向けたとき、そこにいた人とバチッと目が合った。


「あっ……」


思わず声が漏(も)れる。


あたしの声に気づいた男の子は、一瞬不思議そうに目を丸くしたあと、ニコッと太陽のようにまぶしい笑みを浮かべた。


「隣って奥山(おくやま)だったんだ」


なんてことなくそう言いはなつ彼に、息が止まりそうになる。