ざあっ、と強い風が僕達の間を通り抜けた。

日陰で少し肌寒い風。

だけど、先輩の体温が思ったよりも高く感じられて、寒いと感じることはなかった。


僕は最後の言葉を言い終えたあと、ゆっくりと先輩から身体を離す。

先輩は顔を真っ赤にして俯いていた。


いつもは見せない、しおらしい先輩の姿がとても愛おしい。


可愛くて、愛おしくて。

つい笑ってしまった。


「・・・なに笑ってるの」

「ハハッ、いや、凄く可愛いなあって」

「ば、ばかっ!」

先輩はますます顔を赤くして僕の身体を叩く。
そして顔を見られたくないのか手で覆って隠した。


ひとつひとつの仕草がもう、たまんない。

やっぱり、僕は先輩を幸せにしたい。

本来の先輩の姿は、とても可愛らしいんだから。
涙なんて、先輩には似合わないから。



「・・・ということで、僕は絶対に諦めません。だから、覚悟していて下さい。話はそれだけです。いきなり抱きしめちゃってすいませんでした」

そう言って先輩に深々と頭を下げると、足早にその場をあとにした。


ほんの少しでもいい。
僕の気持ちを聞いて、先輩が僕の事を考えてくれたら・・・。


そう願いながら、僕はまた弓道場へと戻る。


気持ちを新たに打った矢は、まるで僕の先輩への想いのように、真っ直ぐ真ん中へと吸い込まれていった。