もう我慢出来なかった。

そんな自分勝手な考えだけで千尋先輩を悲しませて、許せるはずがない。

強く握った拳がふるふると震える。


「・・・つまり、それは高梨先輩は心から千尋先輩を好きじゃないってことですか」

「好き・・・ねえ。別にそこまでではないかな?顔良くなきゃ付き合ってないよ、あんな女」


と、先輩が言ったところで、僕の拳が先輩の左頬にヒットする。
その衝撃に先輩は少しよろけた。

僕は殴った拳の痛みに耐えながら、息を荒くして先輩を睨む。


「最低だよ、お前!そんなふざけた思いだけで千尋先輩を悲しませるなよ!!」


声を荒げて先輩に言う。

けど、先輩は殴られた頬を手で押さえながら、笑みが消えることはなかった。


「・・・ってえ。効くな、ふいにやられるの」

「なんで笑ってるんだよ!」

「だって笑えるじゃん。あんな女にマジになってさ。どうせ振られるのに」

「なんでそう言えるんだよ!そんなの分かんねえだろ!?」

「じゃあなに?お前ごときで俺がアイツに振られるって?そんな訳ねえじゃん。アイツは俺のことが好きなんだよ。別れるとかよく言うけど、あれはただ俺の気をひきたいだけ。だって現に謝れば元サヤに納まるじゃん。アイツはお前のことなんてこれっぽっちも想ってねえよ」


そう言って笑いながら、足元に置いた弓を蹴り飛ばして弓道場から去っていった。




――殴る価値もない男。

殴ってから、そう後悔した。