「久しぶりにやったけど、腕は落ちないもんだな」

高梨先輩はそう言いながら、僕を見てニッと笑った。
その笑みに少しムッとする。

「・・・さすがですね」

「ハハッ、顔に出てるぞ?練習もしない奴が簡単に的に当てちゃうなんて、お前からしたら面白くないだろ?」


高梨先輩の言葉ひとつひとつが僕を煽っているように聞こえて、拳を強く握り何とか堪える。


怒らせようとしているのか、それは分からない。

でも高梨先輩の言葉に乗っちゃいけない。

ここは冷静にならないと・・・。


「・・・別に。僕はまだ初めてそんなに長くはないですから」

「ふうん。まあ、頑張れよ」


そう言って、先輩はまた矢を放った。

その矢は重低音を響かせて、真ん中へと刺さった。


「・・・ああ、そうだ。ちょうど千尋もいないし、ここらで話しとくか」


構えていた弓を足元に投げるように置くと、僕を見下したように見る。

そして、こう言った。


「お前さあ、千尋のこと好きなの?」





その言葉に、ドキッとして顔が赤くなった。

僕が千尋先輩を好きなのを知っているのは真司だけなはずなのに、まさか高梨先輩にバレていたなんて。


「・・・やっぱりそうか」

「・・・別に想うくらいいいでしょう」


本当は隠そうと思った。

けど、千尋先輩への今までの態度がどうしても許せなくて、開き直った。


僕の気持ちを知って、高梨先輩はどう出る?

自分の彼女に想いを寄せる他の男がいると分かって、焦るのか?

今までの行動を改めて、千尋先輩を大事にするのか?


行動によっては諦めたっていいと、そう思って僕は正直に高梨先輩に告げた。


・・・だが、高梨先輩から出た言葉は、耳を疑うものだった。



「まあ、アイツいい女だしな。想うくらいは許してやるよ。・・・でも多分俺からは離れないと思うよ?」