的に集中し、矢を放つ。

けれど、どうも頭の中で昨日の事がよぎって上手く当てることが出来ない。

「・・・くそっ」

何本か放った所で、そう声を漏らした。


千尋先輩に褒められるくらい、上手くなりたいのに。

ちょっとした邪念でこんなに乱れるのは、まだまだ僕は未熟だって事だ。


「あー・・・もう、うまくいかない」


思わず手に持っていた弓を投げそうになってしまった。

上に振りかざした所でハッと我に返る。


上手く出来ないからって、物に当たるなんて最低じゃないか。

しかも大事な弓道の道具に・・・。


軽率な行動に、自分自身呆れてしまう。


何か一つでもいいから、高梨先輩よりも勝るものが欲しい。

なのに、こんな子供染みた行動をしているようじゃ・・・。




そんな時、後ろから声がする。

その声は今一番聞きたくない声。会いたくない僕の恋敵。

「なんだお前、やたらと早いな」

「高梨先輩・・・!」


いつも大会近くじゃないと姿を現さない高梨先輩がそこにはいた。

僕のように弓道衣を着ているわけでもなく、制服のジャケットを脱いだだけの姿で弓を持って立っている。

そんな格好でやるのか、と少しムッとした。


「あれ?千尋は来てないのか?」

辺りをキョロキョロと見回しながら、高梨先輩はそう僕に聞く。

「・・・今日は委員会に出るから遅くなるそうです」

「ふーん・・・。ったくマジメなのは相変わらずだな」


ククッと笑いながらそう言うと、先輩は弓を構えて矢を放つ。

矢は吸い込まれるように真っ直ぐ、的の中心に刺さった。

的に集中するわけでもなく、何気なく放った矢を中心に一発で当てるなんて・・・。

僕は中心に刺さった矢を見つめて、ごくりと息を飲んだ。